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紙VASとデジタルVAS

研究で分かっていることと、10cmに校正する意味。紙と画面での対応関係を整理します。

約11分

研究で分かっていることと、10 cmに校正する意味

Visual Analog Scale(VAS)は、線の両端に異なる意味を持つ言葉を配置し、自分の感覚に最も近い位置を線上に示す評価方法です。

痛み、快・不快、疲労感、眠気、呼吸困難感など、数値だけでは表しにくい主観的な感覚を測定するため、さまざまな研究や調査で利用されています。

従来は、紙に印刷した10 cmの線上へペンで印を付け、左端から回答位置までの距離を定規で測る方法が一般的でした。

近年では、この回答と記録をタブレットやスマートフォン上で行うデジタルVASも利用されています。

紙から画面へ移行しても、VASとして同じように利用できるのでしょうか。

紙VASとデジタルVASには良好な対応が報告されている

これまでに、紙VASとデジタルVASを比較した研究が複数行われています。

Jamisonらは2002年、24人の健康な成人を対象に、紙VASと携帯型コンピューター上の電子VASを比較しました。痛みの強さを表す言葉や感覚刺激を評価した結果、紙と電子による回答には全体でr=0.91の高い相関が認められました。刺激の種類別でも、r=0.86~0.97の良好な相関が報告されています。

Sindhuらは、上肢に外傷のある33人を対象に、デジタルVASの信頼性、妥当性、変化への反応性を検討しました。デジタルVASの再検査信頼性はr=0.96で、紙VASなどとの関連もr=0.84~0.97と良好でした。

Escalona-Marfilらは2020年、健康な成人102人を対象に、10 cmの紙VASとタブレット上の電子VASを比較しました。測定方法間の級内相関係数(ICC)は0.86で、良好な信頼性が示されました。紙と電子の平均的な値の差も小さいものでした。

また、電子的な疼痛データ収集を扱ったJibbらのシステマティックレビュー・メタ解析では、電子方式と従来方式による疼痛評価の統合相関係数は0.92でした。

これらの研究から、適切に設計されたデジタルVASでは、紙VASと良好に対応する測定結果が得られることが示されています。

デジタルVASは10 cmでなくても良好な結果が得られている

紙VASでは10 cmの線が一般的ですが、デジタルVASが紙VASと良好に対応するために、画面上の線も必ず10 cmでなければならないわけではありません。

Turnbullらは、10~73歳の109人を対象に、10 cmの紙VASと13.5 cmの電子VASを比較しました。その結果、成人ではICC 0.94、子ども・青年ではICC 0.80と、異なる表示長であっても良好な信頼性が認められました。

紙VASと電子VASを比較した研究をまとめたByromらのレビューでも、検証された電子VASの表示長は21~200 mmと幅広いものでした。評価された研究の多くで、電子版と紙版の比較可能性が報告されています。

つまり、デジタルVASは、紙VASと物理的な長さが異なっていても、良好な測定結果を得られる場合があります。

紙がタブレットに、ペンが指やスタイラスに変わること自体が、VAS測定の大きな障壁になるとは考えられていません。

それでも10 cmに校正する意味

デジタルVASが必ず10 cmである必要はありません。

それでも、画面上のVASを実寸10 cmに校正することには、研究方法上の明確な利点があります。

一般的な紙VASと同じ物理的な長さに設定することで、紙からデジタルへ移行する際の条件差を一つ減らすことができます。

この点を直接検討した研究として、BirdらによるiPad VASの研究があります。

この研究では、100 mmの紙VASと、100.06 mmに設定したiPad上のVASが比較されました。iPadの画面は横向きに固定され、表示の回転や拡大・縮小が起こらないように設計されていました。

22人の健康な高齢者を対象とした比較では、紙VASとiPad VASの間に強い関係が認められ、決定係数はR²=0.904でした。

また、画面上の回答位置を研究者が定規で測定した値と、アプリが自動算出した値を比較したところ、R²=0.9998という非常に高い一致が示されました。

この研究は、紙VASとほぼ同じ実寸に設定したデジタルVASにおいて、紙と近い測定結果が得られ、回答位置を高い精度で自動的に数値化できることを示しています。

紙VASにも測定上のばらつきがある

紙VASでも、すべての条件が完全に同じとは限りません。

使用する紙、印刷機、印刷倍率、線の太さ、筆記具、定規、測定者などには一定の違いがあります。

たとえば、印刷時に自動的な拡大・縮小が行われれば、10 cmとして作成した線が実際には10 cmにならないことがあります。太いペンで印を付けた場合には、回答位置のどこを測定するか判断が必要になることもあります。

それでも紙VASによる研究が成立しているのは、必要な範囲で尺度と測定手順を統一し、同じ条件で測定を行っているためです。

デジタルVASでも考え方は同じです。

重要なのは、媒体が紙であるか画面であるかという違いだけではなく、表示される尺度、回答方法、アンカーラベル、記録方法を研究内で統一することです。

デジタル化によって減らせる誤差

紙VASでは、回答後に研究者が定規で回答位置を測定し、その数値を表計算ソフトなどへ入力します。

この過程では、次のような誤りが生じる可能性があります。

  • 定規による読み取りのずれ
  • 数値を丸める際のばらつき
  • 表計算ソフトへの転記ミス
  • 欠測や複数回答の見落とし
  • 用紙と被験者情報の取り違え

デジタルVASでは、回答位置をアプリが直接数値へ変換するため、定規による測定や手入力を省略できます。

また、回答値と被験者ID、評価項目、条件、実施日時などを関連付けて保存できるため、紙の回収、整理、測定、転記に必要だった作業を大幅に減らせます。

デジタル化は、新しい媒体へ変更することだけを意味するものではありません。

紙VASの回答形式を保ちながら、測定後の作業と人為的な誤りを減らすための方法でもあります。

rVASでは実寸10 cmに校正できる

rVASでは、iPad上に表示するVASを実寸10 cmに校正できます。

これにより、一般的な100 mm紙VASと尺度の物理的な長さをそろえ、紙からデジタルへ移行する際の条件差を一つ減らすことができます。

単に画面幅に合わせて尺度を表示するのではなく、実寸で校正するため、研究で使用する表示長を明確に定められます。

また、rVASでは紙VASと同じように、指、Apple Pencil、スタイラスなどを使って線上に回答を示すことができます。

回答位置は自動的にVAS値へ変換され、条件、評価項目、被験者、反復回数などの情報とともに保存されます。測定後には、複数の回答データをまとめてXLSX形式で出力できます。

つまりrVASは、紙VASの「線上に感覚を示す」という回答方法を保ちながら、回答位置の測定、数値化、保存、整理、出力をデジタル化します。

研究で重要なのは条件を統一すること

紙VASとデジタルVASのどちらを利用する場合でも、研究内で測定条件を統一することが重要です。

デジタルVASを使用する場合には、次の条件をあらかじめ決めておくと、測定方法を明確に記録できます。

  • 使用する端末
  • 画面の向き
  • VASの表示長
  • アンカーラベル
  • 指やスタイラスなどの入力方法
  • 回答中に数値を表示するか
  • 回答の初期状態
  • 値の記録範囲と精度
  • 使用したアプリとバージョン

同じ研究の中でこれらの条件を統一することで、参加者間や測定時点間で一貫したVAS測定を行いやすくなります。

まとめ

紙VASとデジタルVASを比較した複数の研究では、両者の間に良好な相関や信頼性が報告されています。

デジタルVASは、紙VASと表示長が異なる場合でも良好な結果を示しており、必ずしも10 cmでなければ利用できないわけではありません。

そのうえで、画面上のVASを実寸10 cmに校正することには、一般的な100 mm紙VASとの物理的な条件差を一つ減らし、研究で使用する表示条件を明確にできるという利点があります。

rVASでは、実寸10 cmに校正したVAS上へ、紙と同じように線を引いて回答できます。さらに、回答位置の測定、数値化、保存、集計、XLSX出力を自動化できます。

紙VASの使い慣れた回答形式を保ちながら、研究データの収集と管理を効率化する。それがrVASの目指すデジタルVASです。

先行研究について:本記事で紹介した研究は、それぞれの研究で使用された電子VASと紙VASを比較したものです。rVAS自体と紙VASの同等性を直接検証した研究ではありません。

参考文献

  1. Jamison RN, Gracely RH, Raymond SA, et al. 「Comparative study of electronic vs. paper VAS ratings: a randomized, crossover trial using healthy volunteers.」. 『Pain』, 2002. https://doi.org/10.1016/S0304-3959(02)00178-1
  2. Sindhu BS, Shechtman O, Tuckey L. 「Validity, reliability, and responsiveness of a digital version of the visual analog scale.」. 『J Hand Ther』, 2011. https://doi.org/10.1016/j.jht.2011.06.003
  3. Bird ML, Callisaya ML, Cannell J, et al. 「Accuracy, validity, and reliability of an electronic visual analog scale for pain on a touch screen tablet in healthy older adults: a clinical trial.」. 『Interact J Med Res』, 2016. https://doi.org/10.2196/ijmr.4910
  4. Escalona-Marfil C, Coda A, Ruiz-Moreno J, Riu-Gispert LM, Gironès X. 「Validation of an electronic visual analog scale mHealth tool for acute pain assessment: prospective cross-sectional study.」. 『J Med Internet Res』, 2020. https://doi.org/10.2196/13468
  5. Turnbull A, Sculley D, Escalona-Marfil C, et al. 「Comparison of a mobile health electronic visual analog scale app with a traditional paper visual analog scale for pain evaluation: cross-sectional observational study.」. 『J Med Internet Res』, 2020. https://doi.org/10.2196/18284
  6. Jibb LA, Khan JS, Seth P, et al. 「Electronic data capture versus conventional data collection methods in clinical pain studies: systematic review and meta-analysis.」. 『J Med Internet Res』, 2020. https://doi.org/10.2196/16480
  7. Byrom B, Elash CA, Eremenco S, et al. 「Measurement comparability of electronic and paper administration of visual analogue scales: a review of published studies.」. 『Ther Innov Regul Sci』, 2022. https://doi.org/10.1007/s43441-022-00376-2

本記事は一般的な情報提供を目的としています。研究・測定への適用にあたっては、目的に応じた妥当性の確認をお願いします。

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